Miyacology

インタラクティブアートの知見を福祉に応用

串山 久美子 教授

Kumiko Kushiyama
システムデザイン研究科 インダストリアルアート学域

移動によって音が鳴る車いす楽器を開発

 私の研究室では、工学的・技術的な分野とデザイン・感性の分野を融合させ、実物体と映像や音などを絡めた「インタラクティブアート」の分野で創作活動を進めています。近年は触覚・視覚・聴覚のインタラクションに重きを置き、これらが融合したディスプレイの開発なども手がけながら、社会実装に向けた研究を行っています。用途として健康・福祉・教育といったシーンも想定し、体力測定用のアプリケーション開発や、点字による教育用デバイスなども開発。リハビリ施設や健康福祉学部と連携し、高齢者に多く見られる運動不足や、そもそもの運動意欲の低下といった状況の改善に向けた車いすも開発しました。大きな特徴は、市販の車いすにカラーセンサーや9 軸モーションセンサーを搭載し、車いすでの移動時にセンサーが床面の色を感知することで音を鳴らす仕掛け。「車いす楽器」として、屋外での活動や運動を促進することを目的としました。

 しかし、屋内外のさまざまな光源に応じて床面の素材の発色に違いが生じ、センサーの感知精度が不安定であることが課題となりました。そこで活用したのが、地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターが持つ表面加工技術「静電植毛技術」です。植毛された細かな繊維が光の反射を抑えることで発色が安定し、感知精度が向上しました。

 同センターでは、静電植毛の発色が一般的な印刷による発色と比較してどれだけカラー感知に有効かについて、専門の計測装置を用いて検証。研究室の学生が計測に立ち会い、実験や計測の方法などを学べるメリットも生まれました。現在は、センサーの小型化を進めており、開発は本学と同センター含め他の研究機関や企業と連携して社会実装を目指しております。

車いす楽器を起点に多様な可能性に挑戦

 センサーの小型化技術は、車いす以外のさまざまな用途に活用できます。視覚障がい者が使う杖への搭載をはじめとした障がい者サポートや高齢者の健康増進のほか、純粋に“楽しむ”ことを目的にゲーム要素やアート要素を加えたエンターテインメントツールとしての応用も可能です。

 障害の有無にかかわらず楽しめるのがアートの魅力です。研究室のテーマであるインタラクティブアートの要素も加えながら、多くの人に楽しみながら使ってほしいという思いが研究のモチベーションになっています。