Miyacology

波長を細分化した多色光源で通信を高速化。光通信は“虹色通信”へ

坂本 高秀 准教授

Takahide Sakamoto
システムデザイン研究科 電子情報システム工学域

“1色”のデジタル信号を“100色”に細分化

 私の専門分野は、インターネットにも使われる光通信の回路技術。「OFF=0」と「ON=1」の光の点滅をデジタル信号化し、通信の高速化に役立てる技術です。4Gや5G は使用する周波数帯に関わる通信技術である一方で、光通信で重要になるのは、光の波長や色を操る技術。現状では光が放つ波長の性質を引き出し切れておらず、大きな可能性を秘めた分野なのです。

 高速化のカギは、色の数にあります。従来型の光通信では1色の光を点滅させますが、これを100 色に分けられるのが「光コム発生器」と呼ばれる装置です。1色で1人分の通信容量が確保されると考えれば、100 色なら100人分の通信をカバーでき、1色の回線を100人で分ける通信の100 倍の速度が実現することになります。このように1色の光を100 色に“ 増色” させる際には、波長の性質を活用します。

 「多色光源を生み出す半導体レーザー技術」を実現し、現状ではある特定の波長を持つ色の光しか使えていませんが、この波長・色を細分化するということです。色は濃淡次第で無限に増やせる強みがあり、言うなれば、虹色に光を出す光源技術と、細分化された光を確実に捉える技術を開発しているのです。

 また、1色の中で0と1の光の点滅を行わせるだけでなく、波長の性質を活かせば0.1や0.5など、点滅の強さに階調、つまりグラデーションを設けることも可能。これにより信号の内容が増え、一度に多くのデータを送ることができます。多色化と並行して、1色あたりの通信に多くのデータを詰め込むことができるのです。

 こうした通信の高速化技術は、まずは通信容量が殺到する回線やデータが集中し、トラフィック量が大きい幹線系への導入を目指しています。

100色に分類される波長のイメージ

測れなかったものを測れる未来をつくりたい

 光の信号が多色化され、階調も増えた際に不可欠になるのが、それらの信号を個別に正確に認識できる技術です。そもそも光の波長の性質を知るということは、性質を定性的・定量的に認識・測定できるということ。測定技術の確立が、実用的なシステムやデバイスへの実装につながるのです。

 直近で目指しているのは、「光のオシロスコープ」の開発。電気信号を解析するオシロスコープの“ 光” 版です。そして、さらにその先の未来では、光の微細な波長を確実に捉えるセンサーを開発し、スマートフォンなどの小型端末に組み込むことで、さまざまな分析・測定が可能になると考えています。例えば、高感度な光の信号処理チップを搭載したスマートフォンを食べ物や飲料にかざし、一瞬にして成分がわかる技術の開発も、決して夢物語ではありません。空港での手荷物検査への応用をはじめとするセキュリティ用途にも応えられますし、端末間での瞬間的な大容量データのやり取りも実現可能です。

 こうした未来に向けて期待しているのが、ときにユニークな発想をする学生の存在です。好奇心や挑戦意欲が旺盛な学生から私自身も刺激をもらいながら、今後もプレーヤーとして研究に挑み続けていきたいと考えています。また、学生とは教える側と教わる側という関係だとしても、いずれは対等なプレーヤー同士となって新たな技術を開発していくことが理想です。「グラウンドでは年齢や上下関係は関係ない」とスポーツの世界でいわれるように、物怖じせず、遠慮することなく興味ある研究に臨んでほしいと思います。

 その過程では、学内での研究や論文執筆で完結させるのではなく、学会などで成果を発表するチャンスもあるでしょう。そうした外部との交流も主体的に楽しみながら、人から指示されて行動するのではなく、自発的に、自分が主役となって学びを深めてくれることを願っています。

「光コム発生器」と解析用パソコン