Miyacology

高速計算アルゴリズムで3次元映像技術の実用化を目指す

西辻 崇 助教

Takashi Nishitsuji
システムデザイン研究科 電子情報システム工学域

目の前で物が立体的に見える未来のホログラム技術を開発

 私の専門は、電子ホログラフィという3次元映像技術です。ベースとなるアナログなホログラム技術は、光を変化させられるフィルタによって、物体の反射光を再現することで物体が立体的に見える仕組み。既に紙幣の偽造防止などを目的に実用化されています。これを電子的にコントロールし、任意の空間に立体物を描画させる技術が電子ホログラフィです。例えば自動車では、フロントガラスに貼ったスクリーンに2次元の映像を投影するのではなく、ドライバーの視界に入るフロントガラス越しに、実際の道路や標識などの上に3次元の立体映像としてナビゲーションなどのコンテンツを映し出す未来を思い描いています。

 しかし、実用化に向けた最大の障壁となるのが、3次元映像の再生データを生成する際に、計算処理で膨大な時間がかかることです。そこで私が挑むのは、リアルタイムでの描画に向けた高速計算アルゴリズムの開発。計算は処理内容がシンプルなほど速くなり、必要な回路も小さくできるもの。回路を小型化できれば多くの回路を敷き詰めて、膨大な計算に太刀打ちできるようになります。電子ホログラフィ専用の計算機を開発する研究もありますが、私が目指すのは一般的なCPUでも計算できるアルゴリズムの開発。ハードに依存せず、多様な描画装置に実装しやすい技術であってこそ普及も進むと考えるからです。

 開発で重視するのは、計算を単純化すること。例えば、ホログラフィの物理特性を表すグラフ上で曲線になっている部分があれば、その要因を難しい数式を用いて解き明かすのではなく、まずは直線で近似値を出す方法を考えます。要は、滑らかな波形をつくるためには高負荷の計算が不可欠だという発想から、直線を折り曲げれば波になるという単純な発想に転換するということ。計算過程が可視化されたグラフを見て感じることや気づいたことから仮説を立て、物理特性を単純化しながらエクセル上で行や列を追加してグラフを修正していくのです。

 こうして計算を簡素化する方法を見つけた次の段階は、物理実験での検証です。再生装置でどのように映るか、本当に物理的に成立するのかを確かめます。なかでも中心となるのはコンピューターシミュレーション。新たな方法での計算速度を計測できるほか、作成したデータが描画装置を経由してどう再生されるかをデジタル画像で確認できます。その画像と、計算方法を簡素化する前の画像と比較することで、画質の劣化具合などを定量的に評価することができます。

5Gを駆使することで技術開発を加速させたい

 3次元映像技術の本質は、空間における光の強さをコントロールするということ。ある1か所だけ強度を高めることもできるため、映像以外の用途としてレーザー加工技術への応用や、通信技術への応用も可能です。そのため、最終的なゴールとして3次元映像技術の確立を見すえながらも、その過程において通信など実用化が近い技術としても発展させ、電子ホログラフィの様々な分野への応用を実現させることも視野に入れています。

 3次元映像技術に関しては、臨場感を遠隔地においてリアルタイムで共有することも目的のひとつ。電子ホログラフィは、人の動作や質感までも遠隔地で共有することが原理的には可能な技術だからです。ただ、現段階では計算量もデータ量も膨大となり、通信インフラの拡張とデータ量を削減するための圧縮技術の開発も不可欠。課題は多いですが、一筋の光明となるのが5Gの登場です。しかも5Gの先端的な研究拠点として東京都立大学は整備が進められています。今後も、技術開発を加速させていきたいと考えています。

電子ホログラフィの描画装置で再生されたカエル。3次元映像をスクリーンで輪切りにした状態で結像されている

未来の技術を創造する“SF 的”で夢のある研究。長らく「20 年先の技術」といわれ続けてきたものの、5G の登場による技術進歩が期待されている