Miyacology

MRIが医療の未来を創造する

医療機関における検査機器として知られるMRIは、磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging)によって生体内情報を可視化する技術のこと。
実用化から半世紀以上が経過する中、MRIの高度化に向けた技術開発と生命メカニズムの解明に挑む健康福祉学部の畑純一准教授に研究内容をお聞きしました。

畑 純一 准教授

HATA Junichi
健康福祉学部 放射線学科

首都大学東京(現東京都立大学)にて博士号(放射線学)取得後、東京大学医学部附属病院放射線部、理化学研究所脳神経科学研究センター、東京慈恵会医科大学再生医学研究部などを経て2021年より現職。専門は量子生命科学、磁気共鳴医学、ネットワーク神経科学、医用システムエンジニアリング。

※MRIとは
トンネル状の装置の中で強力な磁石と電波を使い、頭部や心臓、消化器など、診断したい部分の鮮明な断面画像を、縦、横、斜め方向から自由に取得できる精密検査です。放射線による被ばくがなく、安心して検査を受けられるほか、正常な組織とがん細胞などを画像上で区別しやすいメリットがあります。

生物、化学、物理、数学を バランスよく学んでほしい

 研究室には、放射線技師となって臨床での活躍を目指す学生もいれば、研究者を志す学生もいます。どちらにも共通するのは、とことん考え、試行錯誤する大切さです。望ましい検査手法の確立であれ、MRIの高度化であれ、必要なのは学び続ける姿勢です。また、医療機関での日々の検査業務にも研究的な要素はあり、より鮮明でわかりやすい撮像に向けて努力するからこそ、技術は進歩するもの。常に同じ方法ですべての患者さんに対応できるわけでもなく、失敗から学び、克服していく習慣づけも大切です。そして、放射線技師の仕事は、あくまでも装置ではなく患者さんという人間が相手。短時間で効率的に、苦痛を感じさせることなく検査を行うための工夫が必要になります。

 最後に、お伝えしたいのは、学生時代に勉強する生物や化学、物理、数学は、すべてつながりがあるということです。これらを融合させたものが生命科学であり医学ですので、ぜひバランスよく勉強しておいてください。

コモンマーモセットを使い 脳で起こる変化を分析

 研究で特に興味を持ったのは、指令系を司る臓器である脳。MRIで脳のネットワークや機能を解析できれば、人間の病気や行動に関するあらゆる情報を把握できると考えました。脳の神経ネットワークは言わば道路。いくつもの道路からなる地図の上を、脳からの信号が自動車のように動き回るのです。この信号、すなわち神経活動を解析することを「脳コネクトーム解析」といい、睡眠中に見る“夢”を再現しようと励む研究者もいるほどです。

 私が着目したのは、小型霊長類であるコモンマーモセット。元気なときと病気になった後の脳のネットワーク状態を調べ、罹患に伴って脳で何がどう変化するのかを解明したいのです。人間のパーキンソン病やアルツハイマー病は治療法が確立されていませんが、脳のどの部分に変化が生じるのかがわかれば、新たな治療法が見えてくる可能性が高まります。また、ガンをはじめとする疾病の早期発見によって、完治につなげられる可能性も高まるのです。

動物から得られた知見を 人の治療に活かしていく

 コモンマーモセットでの研究は、動物の研究で得られた工学や生命科学、医学の知見を人間の治療に活かすための研究領域であり、「前臨床研究」や「トランスレーショナルリサーチ」と呼ばれます。日本では霊長類研究が進んでおり、この「前臨床研究」でも数多くの実績があります。重要なことは、第一に物理的な情報や機械的な情報をシステム化した上で、情報科学的に検証を行い、生命科学や医学につなげていくことです。水分量や体温、代謝量といった生体反応に関わる新しい情報を導き出すためには、コモンマーモセットに適したパルスシーケンス開発も必要ですし、MRI自体の改良や高度化も重要になります。

国内屈指の研究環境を活かし 再生医療分野にも貢献したい

 都立大の放射線学科は3テスラという高磁場のMRIを備え、設備面でも研究実績でも国内トップクラス。さらには、研究室の学生とともに理化学研究所を訪れ、世界に数台しかない超高磁場9.4テスラのMRIに触れる機会もあるほか、附属病院を持つ他大学との共同研究も進めており、深く生命科学や基礎医学を探究することができます。

 今後に向けては、分子生物学分野との連携にも興味があり、MRIによる細胞レベルの評価を実現させたいと考えています。ある細胞を体内に入れた際に、その細胞がどう動いてどう分布するかなど、iPS細胞の活用をはじめとする再生医療に向けた評価技術を確立したいのです。

脳内活動の可視化に向けた 解析技術を開発

 私が放射線医療の世界に進んだきっかけは、医療への興味に加え、機械を駆使する放射線技師に適性を感じたからです。そして、大学院で博士号まで取得したのは、純粋に研究が楽しかったからです。具体的には、MRIによる体の断面の撮像だけでなく、水分量や温度、タンパク質の量、エネルギー代謝率など、従来のMRIでは解読できなかった生体内の情報を可視化する研究です。これは「パルスシーケンス開発」と呼ばれ、MRIが搭載する磁場や電波の使うタイミングなど、電磁気学に基づいた撮像時の工夫が不可欠。体内における水分子の移動距離や移動時間、さらには電波が共鳴して返ってくる際の周波数などを計測・解析し、生体反応に関わる数値を割り出します。例えば、ヘモグロビンの量的な変化から脳や神経の活動を把握することもでき、医療の進歩にもつながる研究です。

【Web限定!】水素原子を捉えているMRIで、温度やタンパク質の量、エネルギー代謝率をどのように検出するか疑問を持つ方もいるかと思います。「温度」とは、水の温度を指しますが、これは水分子に含まれる水素原子の移動速度から計算しています。温度によって水は 運動量が変わりますので、水分子 の移動速度がわかれば、温度を逆算することができるのです。また、タンパク質やエネルギー代謝率でも、計測して いるものは水素原子。水素が他の原子とどう結合しているかによって、磁場をかけた際に水素原子から返ってくる周波数が異なります。この周波数を追うことで、水分子以外の物質の状態も、MRIを使って計測・解析することができるのです。一方、ヘモグロビンの計測では、ヘモグロビンに含まれる鉄の影響で歪む磁場を計測・解析しています。