Miyacology

縄文時代のリアルを紐解くと、現代社会のルーツが見えてくる。

今回登場するのは、考古学と自然人類学を融合させた学際的研究を進める人文社会学部の山田康弘教授。埋葬の仕方や出土した人骨の分析、集落の分析から見えてくる新しい縄文時代のイメージを紹介します。

山田 康弘 教授

Yasuhiro Yamada
人文社会学部人文学科

筑波大学大学院歴史人類学研究科博士課程修了後、島根大学法文学部教授や、国立歴史民俗博物館研究部教授などを経て、2020 年より現職。『縄文時代の歴史』(講談社)や『縄文人の死生観』(KADOKAWA)、『老人と子供の考古学』(吉川弘文館)など多くの著書がある。


考古学は、ただ古い時代を興味本位に調べるだけのものではありません。現在における様々な問題を、よりよい方法で解決するために、人は過去に学ぶ必要があります。全ての時代を対象とする考古学は、間口の広い魅力的な学問ですので、多くの方に知っていただきたいですね。


頭蓋骨に遺されたDNAの解析によって太古の記憶を呼び起こす

 考古学の研究では、遺跡から出土した土器や石器から当時の生活の様子を調べたりするほか、出土した人骨を分析して血縁関係を推定したり、お墓の副葬品から社会的な身分を推定したりします。ただし、考古学のみでは血縁関係や身分制度の探究には限界があり、仮説を証明することができません。そこで私が約30年にわたって取り組んできたのが、自然人類学の研究者と連携した学際的な研究です。

 近年は、出土した縄文人の頭蓋骨から核DNAを抽出する技術が発達。コロナ禍で認知度の上がったPCR法によって増幅させたDNAを解析することで、当時の家族の様子を知り、家系図の作成も夢ではないレベルまで研究が進んでいるのです。

現代の社会問題の解決方法を縄文人に学ぶ

 現在、ほとんどの人が定住生活をしています。この定住生活を始めたのが縄文人でした。定住生活が始まると、条件のいいところに人々が集まるので、以前のように簡単に居住地を変えることができなくなります。このため、ゴミの捨て方や隣人との付き合い方など、様々な社会的なルールが作られました。また、集落の周辺に食料が無くなったとしても、簡単に他所へ取りに行けないので、人々は土偶などに祈り、大地の豊穣を願うようになります。こうして社会は複雑になり精神文化も発達した一方で、現代社会にも存在する様々な問題、たとえば縄張り争いやゴミ問題も発生していきました。

 縄文人がこれらの問題にどのように向き合っていたのか調べることによって、私たちは現代の様々な問題を解決する糸口を見つけることができます。縄文時代と現代はつながっているのです。

「お墓は社会をうつす鏡」である

 これまで私が特に注目してきたのが、縄文時代のお墓です。お墓からは、いろいろなことがわかります。たとえば、縄文人は赤ちゃんが亡くなると、土器の中に入れて埋葬しました。これは、縄文人が土器を女性の体に見立てており、赤ちゃんの遺体を母体に戻すことで、一日も早い再生を願っていたためと考えられています。

 また、縄文人は大人になるために、様々な通過儀礼を受けました。その一つが抜歯で、大体16歳頃に行われました。ですが、遺跡からは抜歯をしておらず、大人として認められなかった人の骨も見つかっています。このことから、当時は誰でもそのまま大人になれた訳ではなく、大人になるための条件があったと考えられます。

 成人後、集落運営の中心となる年齢段階で亡くなった場合には墓に多くの副葬品が入れられますが、老年の場合は副葬品がほとんどありません。このことから、当時の人々の間にも定年や隠居などの社会制度があったことを知ることができます。このように縄文時代の墓を分析すると、現代社会と共通する点が見えてくるのです。