Miyacology

“材料屋”として、安心・安全な舗装技術を探究しています

「いつどこにいても舗装のことをじっと観察してしまいます」と話すのは、都市環境学部都市基盤環境学科の上野敦准教授。世界屈指の精度を誇るという日本の道路舗装や、上野先生の研究内容について紹介します。

上野 敦 准教授

Atsushi Ueno
都市環境学部 都市基盤環境学科

博士(工学)。東京都立大学工学部土木工学科卒業後、東京都立大学工学部助手などを経て2007年より現職。専門はコンクリート工学、コンクリートにおける材料科学など。環境負荷低減型コンクリートの実用化や、コンクリート用副産材料の特性評価などを精力的に進めている。


私の研究室では「教員と教え子」という関係性ではなく、チームメイトとして学生に接し、個々の発想を活かした研究を進めています。土木構造物に限らず、何か気になったら「ま、いいか」とスルーせずに「なぜだろう?」と考え、とことん調べてみる大切さは伝えています。


材料と施工方法によって強度や耐久が大きく変わる道路舗装

 私が研究する「舗装」は車道舗装と歩道舗装に大別され、舗装には主に黒い舗装と白い舗装があります。黒は高温に熱した熱可塑性樹脂で石の粒をつなぐ「アスファルトコンクリート」。車道舗装全体の約9割を占めますが、夏場の表面温度は都心で70℃近くまで上昇します。高温になると流動性が復活し、重い車が通って路面に轍ができれば走行安全性が低下します。一方の白は、セメントの粉と水で練った糊剤の化学反応を利用して石の粒をつなげる「セメントコンクリート」。温度の影響を受けず、高強度で高耐久である点が特長です。維持管理や補修、更新のスパンを長くでき、周辺環境への影響も小さいため、国土交通省でもセメントコンクリートへの移行を推奨しています。しかし高コストと化学反応を待つ時間がネックとなり、現状ではトンネル内や勾配の強い坂道のほか、地方都市で大型車の走行が多い幹線道路のバイパスなどに限定されています。

【Web限定!】高コストでもこれらの箇所でセメントコンクリートが使われているのにはもちろん理由があります。例えばトンネルは、補修工事をするとなると通行止めによって莫大なコストが発生しますから、導入コストが高くても高強度・高耐久のセメントコンクリート舗装を使うメリットがあります。また、白い路面の方が黒い路面よりも照明が反射しやすいため、少ない電気代でトンネル内を明るく照らすこともできるのです。勾配の強い坂道でセメントコンクリート舗装が使われるのは、アスファルトコンクリート舗装の工事で使う機械を使うのが難しいから。皆さんも工事風景を見たことがあるかもしれませんが、アスファルトコンクリート舗装では最後に大型のローラで圧縮力をかける必要があります。勾配の強い坂道ではこの作業が難しいため、セメントコンクリート舗装が採用されているのです。

熱対策や透水性、保水性の向上など多様化・多機能化する舗装ブロック

 セメントコンクリートの道路舗装では施工後にブラシをかけ、数ミリ程度の浅い溝をつくることが一般的です。路面に水膜ができなくなることで滑りにくくなり、安全性が高まるからです。ただし、交通量に応じて徐々に路面はすり減るもの。そこで私は、浅い溝が残り続け、当初の滑り止め効果が持続するための工夫として、新たな材料構成を検討しています。

 また、舗装面の温度を下げる研究にも取り組んでいます。近年は、宇宙船に使われる特殊塗料で舗装面を加工するようなケースもありますが、私が主に進めてきたのは太陽光対策。熱源となる近赤外線だけを反射させて逃すコンクリートブロックなどを開発してきました。ブロックの表面に複数の丸い窪みをつけるディンプル加工を施し、太陽光の角度が変わっても高い再帰反射率を実現させました。【Web限定!】「再帰反射」というのは、光が入射してくる方向に光が反射すること。自転車の反射板をイメージするとわかりやすいかもしれません。地面に入射する太陽光を単に反射させるだけでは、周囲の構造物に光が当たり、結局は空間の温度上昇につながってしまいます。特にビル街では大きな問題です。ただし、太陽光が入射してくる方向には構造物がありません。その方向に光を反射させれば、地面も周囲の構造物の温度も上げずに済むのです。

 さらには、地下水の復活に向けた透水性の高い舗装ブロックや、車道舗装用に保水性や排水性を向上させたブロックも開発。水が蒸発する際に熱を奪う気化熱による冷却効果を高めたブロックなど、場所や目的に応じた多彩なブロック開発を進めています。

土木の魅力は習得した知識・技術を多様なフィールドに活かせること

 近年は、貝殻やプラスチックごみをはじめとする廃棄物や副産物などを利用した道路舗装や歩道舗装なども生まれています。ただし、再利用できれば何でも混ぜればいいわけではない、と私は考えています。プラスチックには、舗装以外でも再利用できる方法はあるはず。材料の特性に合った再利用方法であるかどうかを十分に検討することが必要でしょう。コンクリートに混ぜるよりも、社会にとってもっとプラスになるリユース方法があるかもしれないのです。

 また、私はセメントコンクリートのさらなる高付加価値化に向けて研究していますが、どんなに高強度で高耐久でも、事故が起きてしまっては意味がありません。大切にしているのは「事故を未然に防ぐための研究」という視点です。これは土木界全体のプライドでもあり、人々が安全・安心に暮らしていくための「市民工学(Civil Engineering)」として土木に携わる際の覚悟でもあります。

 そんな土木の最大の特徴は、カバー範囲の広さ。ビルや橋などの建造物から道路舗装や歩道舗装、さらには材料開発まで、興味関心に応じて活躍のフィールドは豊富です。大学で土木を学ぶと、幅広い分野で知識や技術を活かすチャンスが広がっていきます。ぜひ挑戦してみてください。